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アンカー5

​これからの研究課題

《酵母の小胞体の機能強化による有用物質産生能の向上》​

 Saccharomyces cerevisiaeに代表される酵母は、遺伝子操作や大量培養が容易な微生物ですが、動物や植物と同じく真核生物です。そのため、元来は動植物から得られていた有用物質を、酵母を用いて生産する試みが世界中で進められています。第一の例は、ヒト由来の分泌タンパク質であり、抗体やインターフェロンやタンパク質性ホルモンが酵母を用いて製造されています。遺伝子組換え法を用い、ヒト由来タンパク質を他の生物にて生産可能になったことで、安全かつ安価に、それらを医薬品として用いることが可能となったのです。第二の例は、脂質分子です。食用油として用いることができる油脂だけでなく、様々な脂質合成系酵素遺伝子を導入することにより、テルペノイドやアルカロイドや脂溶性ビタミン類などの機能性脂質も、酵母を用いて産生することが可能となりました。

 それらの物質を産生する場となるオルガネラが小胞体です。そして私たちは、成熟型HAC1 mRNA遺伝子をSaccharomyces cerevisiae酵母に導入し、常に小胞体ストレスを起こし、小胞体のサイズや機能を向上させる手法の確立を進めています。これからの研究課題は、第一に、私たちが作製した成熟型HAC1 mRNA遺伝子導入酵母の有用性を実証することです。そのために、外来分泌タンパク質(ヒト抗体)や多様な機能性脂質の生産を進めたいと考えています。

 なお、成熟型HAC1 mRNA遺伝子導入酵母株では、小胞体のサイズや機能が向上していることの副作用として、増速速度が低下し、細胞の「元気さ」が失われていることが分かっています。これは、現存の成熟型HAC1 mRNA遺伝子導入酵母株の大きな欠点です。私たちは、成熟型HAC1 mRNA遺伝子導入酵母にさらなる改変を加え、小胞体のサイズや機能が向上しているが元気に増殖できる株を作出することを、第二の課題としています。

 第三の課題は、Saccharomyces cerevisiae以外の酵母種を用いることです。Saccharomyces cerevisiae酵母は最も数多くの研究者が用いており、多彩な知見が揃っており、私たちの研究グループでも主としてSaccharomyces cerevisiaeを用いて研究を進めてきました。しかし、外来分泌タンパク質の産生には、Pichia pastoris酵母(元来のタンパク質分泌能が高い)が用いられることが多く、また、脂質分子の産生には、Yarrowia lipolytica酵母など元来の脂質産生能が高い酵母を用いることが多いです。よって、これらの酵母においても小胞体ストレス応答についての研究を進め、小胞体の機能やサイズを増大させる手法を確立し、有用物質の生産に寄与したいと考えています。

Saccharomyces cerevisiae酵母のエタノール発酵時の小胞体ストレス》​

​ Saccharomyces cerevisiae酵母は、強いエタノール発酵能(産生能)を有しており、古来から醸造や製パンなどに用いられてきました。そして近年では、バイオエタノール生産にも使われています。私たちは、高濃度のエタノールが酵母において小胞体ストレスを引き起こすことを見いだしました。このことは、醸造、製パン、バイオエタノールなどに悪影響を与えていると考えられます。そこで私たちは、エタノールが引き起こす小胞体ストレスについて研究を進め、それを回避する手段を見つけることを目指しています。

《小胞体ストレス応答による酵母細胞内の脂質組成の変動》​

 酵母細胞は、リン脂質、中性脂質(油脂)、スフィンゴ脂質、エルゴステロールなど、多様な脂質分子を有しています。また、脂質を構成する脂肪酸の炭素長や飽和度もまちまちです。これまでの研究を通じて私たちは、小胞体ストレス応答に応じて、脂質の総量だけではなく、組成も大幅に変化することを見いだしています。そして、このことがどのような意義を有するのか解明すべく、研究を続けています。

2024年入学のM1学生の皆さんには、上記の研究テーマをさらに進めるような研究を行っていただきたいと考えています。研究室配属後(あるいは配属前)に木俣准教授と十分にテススカッションし、​学生の皆さんの希望と最大限に取り入れつつ、各人の研究テーマを決められれば幸いです。

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