​これからの研究課題

《小胞体の機能強化によるタンパク質分泌生産能の向上》​

 酵母を含む真菌類は、さまざまな有用蛋白質の生産に使われています。​例えば、ヒト抗体はウィルス性疾患やガンの治療薬として有望視されており、サッカロミセス属酵母の近縁種であるピケア属酵母を用いたヒト抗体の量産は、将来的な発展が期待される技術です。ピケア属酵母の細胞内においても、抗体分子の高次構造形成(折り畳みと会合)が行われるのは小胞体です。私たちは、正常な高次構造を有する抗体を量産できるピケア属酵母を開発を目的とし、ピケア属酵母の小胞体に関する研究を進めています。

 また、私たちはノボザイムズ・ジャパン社との共同研究を進めています、その目的は、小胞体の機能が人為的に増強され、高いタンパク質分泌能を持つコウジカビの開発です。そのようなコウジカビは、洗濯用洗剤に添加される酵素を含め、多くの有用蛋白質の生産に用いることができるでしょう。

《膜脂質の異常が小胞体ストレスとしてIre1を活性化する仕組み》​

​ 小胞体は分泌タンパク質や細胞膜タンパク質の折り畳みの場となるだけでなく、脂質の合成の場でもあります。私たちは、脂質の組成異常も小胞体ストレスとなり、小胞体ストレスセンサーIre1を活性化する(小胞体ストレス応答を引き起こす)ことを見いだしました。そして私たちは現在、そのメカニズムの解明を目指しています。

​ 動物では、肥満や高脂血症などの局面で小胞体ストレスが誘発され、それがいろいろな疾患に繋がることが分かっています。私たちの研究がそのような疾患についての理解を深め、治療法の開発に繋がることを期待しています。

《小胞体ストレス応答経路の人為的活性化によるサッカロミセス酵母の改良》​

​ サッカロミセス酵母は、強いエタノール発酵能を有しており、古来から酒造などに用いられてきました。そして近年では、バイオエタノール産生にも使われています。私たちは、高濃度のエタノールが酵母において小胞体ストレスを引き起こすことを見いだしました。よって、小胞体ストレス応答経路をあらかじめ人為的に活性化しておけば、高濃度のエタノールでも元気に生命活動を営める酵母を作り出せるかもしれません。そのような酵母は、エタノール高生産株として有用となるでしょう。

​ また、小胞体ストレス応答経路の活性化は、小胞体の機能全般の亢進に繋がり、そして、小胞体の役割のひとつに、脂質の合成が挙げられます。よって、小胞体ストレス応答経路を人為的に活性化させると、脂質の合成能が飛躍的に上昇すると期待され、バイオディーゼル合成を含め、酵母による脂質生産に繋げることができると考えています。

 しかし、小胞体ストレス応答経路の過剰な活性化は細胞にとってダメージになることも知られており、それを回避することも私たちの研究目標のひとつです。

2021年度入学のM1学生の皆さんには

・サッカロミセス属酵母を用いたコウジカビ小胞体タンパク質の機能解析(ノボザイムズ・ジャパン社との共同研究)

・ヒト抗体産生能が向上したピケア属酵母の開発

をテーマにした研究を進めていただく予定です。

しかし、上述の研究課題に則った他の研究テーマもあるので、何か希望がある人は相談してください。